その日、私は山の中で道に迷っていました。
普段は近づかない山なのですが、その日は習い事に時間がかかってしまい、いつもよりも帰りが遅くなってしまったのです。
しかも、その日は楽しみにしていたアニメの放送日で、このままでは完全に見そびれてしまうのです。
そのため、私は直線距離で最短ルートになるこの山に入ったのです。
山といってもそこまで大きなものではなく、本当に近所の裏山といった感じの山でした。
しかし、一度も来たことがない場所で、どこを見渡しても木々が鬱蒼と広がるだけでした。
もはや、元の道に戻ることすら叶いませんでした。
少し日も傾き始めたということだけは何とかわかるくらいで、時計も持っていなかったので正確な時間すらわからないままでした。
ひとつだけ確かなことは、もうアニメは見そびれてしまうことが確実だということくらいでしょうか。
途方にくれながらも何とか歩き続けた私は、木々が生えていない、広々とした場所を見つけました。
そこには、むき出しの地面に、数え切れないほど多くのロウソクが立っているだけの空間でした。
後ろには先程までの雑木林が広がっていて、それ以外の方向、右も左も前も、全てロウソクで埋め尽くされていました。
おかしい、ここらへんの地理にはそこまで詳しくないものの、地図ではこんなに広い場所はなかったはずなのに、と考えながらも、周囲を見渡していました。
地平の彼方まで広がる空間、遠くの方はロウソクの白さしかわかりませんでした。
時折、ロウソクの火が付いては消えているのは分かりました。
先ほどの雑木林よりも居心地は良かったです。
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虫もいませんし、歩くのも楽でした。
しかし、いつまでもここにいてはいけないと、私は無意識に思いながら汗をかいていました。
もはや何も考えずに、私は後ろに広がる雑木林に走って戻りました。
無意識に走り続けた私は、いつの間にか山を下りることができました。
入った場所とは違う、少し家に近い場所でした。
かなり時間が経っていると思っていましたが、近くの壁についていた時計は、そこまで遅い時間をさしてはいませんでした。
とは言え、先ほどの景色を早く忘れたかった私は、急いで家に帰ることにしました。
帰ったあと、周辺の地図を広げました。
やはり、あの山にあれほどの広大な空間はどこにもありませんでした。
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