私は取材のために、ある村まで足を運んでいました。
初日に必要な取材や調査も終わり、その日は宿でのんびりする予定でした。
少し古い宿でしたが作りはしっかりしており、従業員の応対も満足のいくものでした。
ただ、一つ気になったのは、宿に入るときに従業員から「黒以外の服を持っているか」と聞かれたことです。
荷物の中には白いシャツが入っていることを伝えると、その従業員は何事もなかったかのように引っ込みました。
何だったのかわからないままでしたが、私は部屋に荷物を置きに行きました。
少し買い物でも楽しもうと思ったからです。
部屋に荷物を置いたあとになって急に天気が悪くなり、結局は宿にとどまることになってしまいましたが。
その日の夜、食事を部屋まで運んでくれた従業員から、またしても「黒以外の服」の有無を聞かれました。
私が再び、白いシャツを持っていることを告げると、その従業員も満足そうに戻って行きました。
確かに上から下まで黒い服で統一してはいましたが、なぜそこまで黒い服を忌み嫌うのかわかりませんでした。
ただ、よく見ると部屋の壁に「就寝時は黒以外の服を着てお休みください。
お持ちでない場合は貸出しいたします」と張り紙に書かれていました。
就寝時になって、私は寝巻きにと持ってきていた白いシャツを取り出しますが、誤って同居している恋人のシャツを持ってきてしまいました。
もちろん、サイズは合いません。既に夜も遅く、疲れていた私はそのまま眠りにつくことにしました。
その夜、私は違和感を感じて目を覚ましました。
何者かが、私の腕を掴んで引きずろうとしているのです。
私は抵抗しましたが、強い力に敵わず、謎の人物に引きずられかけました。私が大声を上げると、従業員が駆けつけてくれて、謎の人物はいつの間にかいなくなっていました。
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従業員は、私が全身黒い服を着ていることに驚き、事情を話すとサイズの合う白い服を持ってきてくれました。
翌朝、例の人物について聞いてみると、昔、この村では生贄の風習があり、地獄から来た亡者が生贄を地獄まで引きずり込むのだとか。
そして、その生贄は目印として「黒い服」を着させられたのだそうです。
生贄の風習が無くなってからも、全身黒い服を着て眠っている人を「生贄」と認識して地獄に引きずり込もうとするのだそうです。
そのため、黒以外の服を持っているかどうかを聞いたのだそうです。
私の腕には、未だ消えない手形の痣が残っています。