廃屋の洋館
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その町には古びた洋館がありました。
既にそこの住人は亡くなっていて、何十年も誰も住んでいませんでした。
それには理由があって、その洋館は小高い山の中腹にある崖の上に建っていたのですが、崖とは反対側にある唯一の出入り口が土砂崩れで塞がってしまい、簡単には立ち入れなくなってしまったのです。
そのため、それ以来数十年、手付かずのまま放置されていたのです。
その町に住んでいた男の子は、山の中で宿題用のスケッチをしていました。
なかなか目当ての植物を見つけることができず、普段は立ち入らない場所まで足を踏み入れていました。
見通しは良かったので迷う心配もないのですが、男の子はいつの間にかその洋館のある場所まで来てしまいました。
男の子は何度かその洋館のあたりまで来たことはありましたが、入口が塞がっていたので入ることもできず、高い外壁を眺めるばかりでした。
ところが、その外壁の一部が崩れて、子どもくらいなら入り込めるスペースができていたのです。
老朽化と最近の台風のせいで崩れたのかと思った男の子は、好奇心を抑えきれずにその洋館に入り込みました。
何十年も放って置かれたということは知っていたので、予想通りの古さを実感していた男の子は、どんどん奥へと向かいます。
すると、ある一室の奥、壁が崩れているところから外を見てみると、目当ての植物を発見しました。
スケッチが済んでいなかった男の子は喜んでその植物の下まで向かい、スケッチを開始しました。
集中してスケッチしたおかげで会心の出来栄えに満足した男の子は、遅くなってはいけないと思い、洋館を出ようとします。
ここは既に洋館の外ですが、堀があってここからでは崩れた外壁のある場所まで行けなかったので、一度洋館の中に戻ってから来た道を戻るしかありませんでした。
すると、男の子は不思議に思います。
ここに入った時には開いたままだった部屋のドアが閉まっていました。
閉めた覚えがなかったのですが、風で閉まったのかな、と思った男の子はひとまず部屋の出入り口まで向かいます。
しかし、ドアノブをひねってもドアは開きません。
怖くなった男の子は必死になってドアを開けようとしますが、どこからともなく「ちょっと待ってね」という声が聞こえてきました。
それに驚いた男の子ですが、その後すぐに「バキバキッ」という音にさらに驚くことになります。
そして、そのあと急にドアが開くようになりました。
なんだったんだろうと思った男の子は、来た道を引き返していきます。
すると、その途中で床に大きな穴が空いているのを見つけました。
来た時にはこんなものはありませんでした。
穴は床の中央部分に、その男の子くらいは簡単に飲み込める大きさのものでした。
そして、賢い男の子はふと思います。
もし、あの時ドアが閉まっていなかったら、ここまでたどり着くのとあの大きな音の鳴るタイミングは一緒くらいではなかったか、と。
あの声の正体はわかりませんでしたが、少なくともあの声に助けられたのは間違いないと思った男の子は、せめてものお礼にと宿題用ではなかったスケッチを1枚、その洋館に置いていきました。
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