私は中学時代、吹奏楽部に所属していました。
強豪校ではありませんでしたが、近所の老人ホームや病院での慰問コンサートなどで演奏する機会が多く、それなりに充実していました。
音楽準備室には、授業用とは別に、部活用の連絡に使うホワイトボードがありました。
大きいものではなく、A4サイズのノートと同じくらいの大きさのホワイトボードで、その日の練習スケジュールやその他の連絡事項を書くために使われていました。
それなりに古く、真っ白とは言えない色をしていましたが。
ある日、職員室に用事があったので訪れると、若い教師2人がコーヒーを飲みながら雑談をしているのが聞こえました。
用事で待たされていた私の耳にも会話の内容ははっきりと聞こえました。
「知ってるか、音楽準備室に『例の』ホワイトボードがまだ残ってるんだってよ」
「え?『例の』って、あのホワイトボードか?マジかよ!
もう流石に無くなったと思ってたんだけど」
「だよなぁ、けど、間違いないぜ。
こないだ音楽準備室に行ったら確かにあったんだよ。
あの『裏に呪いが刻まれたホワイトボード』が。
別物かと思ったけど、間違いないだろうな」
こんな感じの内容でした。
その後、用事を済ませた私は音楽準備室に向かい、そのホワイトボードの裏を見てみました。
すると、「 ユ ル サ ナ イ 」と彫られていました。
深く、恨みを込めたようにしっかりと彫られていました。
普段は、壁に固定されていて見えないのですが、少し無理して動かしてみると確かに見えました。
怖くなった私は、職員室から出てきた先ほどの教師の一人に、先ほどの会話について聞いてみました。
するとその教師は、「どうしても聞きたいのなら、今度の休みに先生の家に来い。確か、今週の土日は音楽室の改装か何かがあって使えないから、部活は休みになるはずだしな。」と提案してきました。
確かに、次の土日は部活が休みになっていたので、土曜日に伺う旨を伝えました。
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そして約束の日、学校の近所にあるアパートを訪ねました。
呼び鈴を鳴らすと、その教師が迎えてくれました。
片付けられた室内に案内され、お茶を出してくれました。
さっそく例のホワイトボードについて聞いてみると、
「誰にも言うんじゃないぞ。あのホワイトボードな、先生があの学校の生徒だった頃からあるんだ。何に使われてたかは知らないけどな。でだ、そのホワイトボードの裏面には『ユルサナイ』って書いてあるんだ。あ、見たのか、お前も。誰にも言うなよ。でな、その文字は、当時吹奏楽部だった先生の一つ下の学年の生徒が自殺する前に彫ったんじゃないかって噂がたっていたんだ。多分、いじめかなにかじゃないかな?実際、その噂が広まった頃に吹奏楽部員が数名、転校してるんだよ。あいつらがいじめてたんじゃないかって。聞いた話では、もう誰も生きちゃいないそうだ。自殺とか、事故とか、殺されたとか、噂はあくまで噂だけどな。」
怖くなった私は「誰にも言うなよ」と何度も念を押す教師の言葉に無言で頷くばかりでした。