私は、とある地方に訪れていました。
親戚の一人が亡くなったのですが、その人が住んでいるのが遠方だったので、電車を乗り継いで葬儀に参加したのです。
当初の予定では親族の家に泊めてもらうはずでしたが、都合が悪くなったらしく、親戚に近くの宿をとってもらってそこに1泊することになりました。
最近になって改装したそうで、とてもきれいな宿でした。
電車での移動で疲れていた私は、部屋に荷物を置いてからすぐに眠ってしまいました。
夜中、中途半端な時間に寝てしまった私は目を覚ましてしまいます。
空腹は感じていなかったので、適当に時間をつぶしてからもう一度眠ることにしました。
特に本とかを持ってきていなかたので、窓の外の景色でも楽しもうかと思い、窓を開けました。
庭もなかなか整っていて、目を楽しませるには十分でした。
月もきれいな夜でした。
その視界の左端に、母屋のようなものが見えました。
宿に来た時には窓を開けていなかったので、こんなところに母屋があるなんて知りませんでした。
その母屋には、ほのかな光が灯っているだけでした。
しかし、どこか幻想的な雰囲気を醸し出していました。
眠くなってきたので、もう一度眠りにつくことにしました。
翌朝、日の出とともに目を覚ました私は、窓を開けて空気を入れ替えようとします。
窓の外には朝露に輝く美しい庭が広がっていましたが、どこか違和感を感じていました。
視界の隅に写っていた母屋が無くなっているのです。
窓の外を見渡しても、母屋の姿は見えません。
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夜のあれは見間違いかとも思いましたが、光が見えたのに見間違いとも思えませんでした。
食事の時に女将に話を聞いてみました。
夜、窓の外に母屋のようなものが見えた、と聞いてみると、女将は顔を青ざめさせていました。
何事かと聞いてみると、確かにそこには母屋が「あった」そうです。
そこは、先代の女将が自室として使っていましたが、数年前、火事で全焼してしまったそうです。
先代の女将も、その火事で亡くなったそうです。
その火事が原因で建物を改装したそうです。
詳しく話を聞いてみると、女将は毎晩、蝋燭に火を灯して眠っていたそうで、火事の原因もそれではないか、ということらしいです。
夜に見た光景に合致するものであったため、私は少し身震いしてしまいました。