僕がまだ小学生だった頃、祖母の家にお泊りに行くことがあったのですが、その時の体験を書かせてもらおうと思います。
祖母の家は大分のど田舎にあり、みかん農家をしていました。
一応本家であるらしく、周囲には分家となった親戚が畑を耕したりして生活をしています。
祖母の家は古い木造の家でしたが、大きな竹林が庭の中にあり、その竹林の中には絶対に入るなと口を酸っぱくして言われていました。
竹の繋ぎ目にいる虫がすごく危ないから入ると面倒だと親戚のおばさんは言っていましたが、祖母の言い方は虫を恐れる以上の鬼気迫る何かがありました。
子供ってやつは、そんなに行っちゃいけないと言われると気になってしまうものです。
僕も御多分にもれず、ダメと言われた物には首をつっこむ子供でした。
おやつをもらった後、祖母は必ず昼寝をします。
その隙をついて、僕は竹林へと探検にでかけました。
竹に虫がいるという話は覚えていたので、なるべく竹に触らないように奥に進んでいくと、無差別に生えていた竹が生えていない石畳が敷いてある道へと出ました。
僕は迷うことなくその道に出て、そのまま進んでいきました。
しばらく歩くと、古ぼけたお地蔵様がちょこんと、たっています。
ちょうどいいや、とその横に座ってたまごボーロを食べながら休憩することにしたのです。
僕はよく食べこぼす人間なんですが、この時もポロポロこぼしていたみたいでした。
すると、目前の竹林ががさがさと揺れて、そこから狐のお面をつけた子供が現れました。
まるで風のようにさっと僕の横にやってくると、地面におちたたまごボーロをひろって食べ始めます。
「落ちたの食べたら汚いよ?」と僕がいうと、顔を上げて僕を見ているようでした。
「じゃあ、それちょうだい」そう言いながら手を出してきたので、僕は躊躇なく残りのたまごボーロをまるごと手渡しました。
実を言うと、かなり食べ飽きていたのです。
相手はそれを受け取ると、僕の横に座って美味しそうに食べはじめます。
その子供は、青っぽいジンベを着て、しかも裸足でした。
「足、痛くないの?」
「草履が壊れたから」
草履と聞いて、僕は祖母が趣味で編んでいる草履を思い出していました。
毎年、お盆の時期に神社におさめているのだそうです。
その子供はたまごボーロを食べ終わると、僕の手を引いてこっちにおいで、と急かせてきました。
異様に強い手の力にびっくりして、手を振りほどこうとすると、早くしないといけないからと言われます。
そのままずんずん、どこへ向かうのか僕達は二人で石畳をまっすぐ進んでいきます。
後ろから、何かがついてきているような気がして、その度に振り向こうとすると、子供に急かされ、の繰り返しでした。
空が暗くなり始めた頃、石畳が終わってしまいました。
子供が向こうに行きな、といって僕の背中をぽん、と軽くおしました。
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気が付くと、そこは祖母に連れられてきた神社でした。
お祭りの日に出店がでる、この辺りでそこそこ有名な神社です。
空を見れば夕方で、もうこんな時間か、と僕は帰路につきました。
帰宅途中、僕は親戚のおばさんに呼び止められ、ひどく心配されてそのまま車に載せられて家まで帰宅しました。
祖母の家には母親と父親がいて、二人とも僕をみるなり泣き崩れてしまいました。
そばには警察官もいて、泣きながら謝る祖母の姿もあります。
僕の感覚としては、3時ぐらいに遊びにでかけて夕方に帰って来た程度のものだったのですが、どうやら一週間程行方不明になっていたようで、
警察に通報されるような騒ぎになっていたそうでした。
僕が警察や両親を伴って歩いた場所を教えようと竹林に入ったのですが、あの石畳に出る前に庭の端っこについてしまいました。
あの竹林はその一件以来危険だからと伐採されてしまいましたが、石畳はおろかあのお地蔵様すら出てくることはありませんでした。
それ以降、僕があの竹林に近づくことはありませんでしたが、今でもあの子供に会わなかったらどうなっていたのか、後ろから追いかけていた存在はなんだったのか、時々考えてしまうことが有ります。
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