私がまだ小学生だった頃、祖父母の家に家族で遊びに行っていました。
その時にはいとこの一家も来ていて、年に1回会えるかどうかだったので毎年楽しみにしていました。
私たちが決まってやるのが「探検」です。
その地域には古い建物が多く、誰も住んでいないので隙間から入り放題、その年も探検に出かけることにしました。
その年に探検したのが、古い「蔵」でした。
古びた建物は祖父母の家にく時しか見る機会がなく、珍しさに興奮していたのを今でも覚えています。
蔵の入口は施錠されていなかったので、あっさりと侵入することができました。
なにか宝物でもないかな、そう思いながらいとこと探索をしましたが、既に中のものは何もかも持ち出されてしまったようで、せいぜい空箱くらいしかありませんでした。
「何もないね」と、いとこと一緒に残念がっていました。
何もないと分かり、蔵を出ようとすると入口が閉まっているのに気付きました。
入るときに閉めた覚えはなかったのですが、しかも、外から鍵が掛けられているのか、開けられませんでした。
他に出口はないかと探していましたが、そのようなものは見当たりませんでした。
するとどこからともなく「なにかくれ」と聞こえてきました。
その声は続けて「何かくれないとここから出してやらないぞ」と言います。
しかし、何も持ってきていなかったし、蔵の中でも何も見つけることはできませんでしたので、差し出すものなんてなく困っていると、いとこが「なんでもいいから出してよ!」と叫びました。
すると急に入口が開き、いとこと一緒に外に脱出しました。
それからというもの、いとこには一度も会っていません。
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祖父母の家にもあまり来ていないようで、祖父にいとこのことが心配だ、と聞くと、あの日の出来事について聞かれたので、蔵に閉じ込められて、何かを差し出すように要求された旨を話すと「そりゃあ、お前『欲しがり鬼』に目ぇ付けられたな」と言います。
「欲しがり鬼」はその地方に伝わる伝承で、「悪い子は欲しがり鬼に物を盗られるぞ」という内容が伝わっていて、子供の躾の文言として使われているそうです。
祖父が言うには「物を持っていないと、心を盗られる」という話です。
確かに、蔵を出てからいとこの様子はおかしかったです。
何も喋らす、表情も変わりませんでした。
いとこは欲しがり鬼に心を盗まれてしまったのです。
今は精神病院に入院しているという噂を聞いています。