もう何年も前から廃墟となっているというその建物は町からだいぶ離れた山の中に、ひっそりと山に埋もれるようにして存在しました。
埋もれるようにと言ったのは、山の斜面に建っていて、建物の半分は山肌に隠れて見えなかったからです。
一階は、山の斜面にコンクリートの壁だけがあり、2階部分からしか中には入れない作りで2階部分が一階で一階部分には窓も何もなく、コンクリートの打ちっぱなしで一見頑丈に作った基礎なのかな?と思える作りです。
中に入った事の無い人は、間違いなく平屋建てだと思うでしょう。
そして、この隔離病棟が異様なのは、そのアクセスにもありました。
かろうじて舗装されている山道から森の中へ入っていく感じで砂利道を300m位入ったところに身を潜めるように建っているんです。
存在を隠しているとしか思えないこの建物は、友人の話では、隔離病棟というのは廃墟になってからここを訪れた人たちが広めた噂で、実際の用途はわからないという話でした。
中を見ると病院か人を監禁するための施設としか思えないというのです。
■話は、ある日曜日、僕と友人のAとBで暇を持て余し、面白い事無いかな?と話し合っていた時の事。
「〇〇山の中腹に本当に恐ろしい隔離病棟があるから、肝試しに行ってみよう。」とAが言い出しました。
「幽霊を見たり、叫び声を聞いた人が大勢いて、俺たちも絶対に幽霊が見れるよ」と僕とBを誘いました。
今は朝の10時、〇〇山だと車で2時間位の所なので、行ってみようということになりました。
その場所は、山道を登り始めて30分位のところで、山道を曲がり、獣道のような道を少し行くと現れました。
最初私が感じたのは、普通の別荘なんじゃないの!という感じでした。
建物を回って一階部分の壁を見た時も、部屋があるようには見えず、普通に斜面に家を建てたので土台をコンクリートで固めているという感じで、別段不審にも思いませんでした。
でもそこに部屋がある前提なら、東側に面した壁なのに、窓一つ無いのは異様です。
B:「こんな所に建てても、普通の人は怖くて住めねーな!」
A:「そうだろ、この場所にあるだけで異常だよな。」
私:「場所から見て、隔離病棟とかじゃないね。」
A:「とにかく中に入ってみよう!驚くぞー」
私達3人は、Aを先頭に建物の中へ入っていきました。
建物の中は、入り口の先はすぐに事務所のようになっていてスチールの机や棚が何個かありました。
建物の中は、廃墟らしく荒れ果ててましたが、まだ昼なので一階部分は窓もあり、明るく怖い感じはしませんでした。
事務所?の真ん中にあるドアを開けると廊下になっていて山側に洗面所・お風呂・トイレと並んでいて、東側には部屋が二つあり壁で行き止まりです。
A:「こっちだよ!来てみな。」
Aに呼ばれ、奥の部屋の押し入れに向かうと、なんと、押し入れの奥に鉄のドアがあり、開けると、下に向かう階段がありました。
B:「なんだよこれ、隠し階段じゃん!」
私:「なんで病棟に隠し歓談があるんだよー!」
A:「だから、隔離病棟っていうのは通り名で、何の建物か解からないって言っただろ。」
A:「ここから先は真っ暗だからライト付けて3人離れないようにして進もうぜ!」
B私:「うん、わかった。」
真直ぐな一直線の階段を降りると、真暗で持ってきたライトでは、闇に光が吸われてしまい、視界は最悪で一気に恐怖感に襲われました。
一階の作りは全てコンクリートのむき出しで、シェルターのような頑丈さを感じました。
階段を下りるとまた鉄の扉があり、その先は建物の横幅の中央あたりまで廊下があり、そこから真直ぐに家の前面である方向に向かって伸びていました。
廊下の左右には、3畳位の小さい部屋が続いていて何故か頑丈そうな鉄の扉になっていて、そのうちの2つの部屋には、簡易ベットが置いてあり、突き当りには広い部屋になっていたのですが、その扉は鉄格子になっていました。
もちろん、窓は一つもありません。
突き当りの広い部屋は、シャワーノズルと便器が剥き出しで付いていて、何故か壁には鉄のバーが横向きに一本ガッシリとはめ込まれていました。
私:「これって、人間を監禁するための建物なんじゃ・・・」
A:「そうだろ、キチガイを監禁する場所か何かだったんじゃないかな!」
A:「やっぱ、隔離病棟なのかもな」
B:「・・・・」
B:「おい、ここって廃墟なのに、綺麗すぎないか?」
A:「そういえば、前来た時もあまり荒らされてない感じがしたな。」
A:「こんな場所だから、知ってる人が少ないんじゃないか?」
B:「・・・・」
B:「そうかなー!とりあえず、寒いから早く出よう。」
何だか、先程からBが様子が変な気がしました。
私:「B怖いんだろー!正直に怖いからって言えよ。」
B:「お前ら、あれが見えないのかよ!とにかく出よう。」
A:「B、ビビってんじゃねーよ!何もいやしねーよ。」
B:「そういう言い方するな、カチカチ鳴り出してるぞ、早く出るんだ!」
私:「カチカチて何だよ?」
B:「いいから、静かにゆっくり外に出よう!」
私A「おう・・・」
私たちは、本当はかなりの恐怖感を感じていたので、Bに従い建物から出ることにしました。
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私たちは外に出、恐怖よりも、地下室の異様さにビビり切っていた私は、ここは本当に恐ろしい場所だと実感し、もう二度とこない事にしようと思いました。
私:「こんな気持ち悪いところ、もう来たくないな。」
A:「そうだろ!結局幽霊は見れなかったけど、建物自体が怖いだろ。」
私:「そうだな、で、カチカチってなんだよ!」
B:「お前達は、ここに何度来ても大丈夫かもな・・・霊感のかけらもないみたいだから。」
B:「Aが霊を否定した発言をしたあとの、カチッカチッという怒りのラップ音も聞こえなかったんだろ!」
B:「それに、ずっと女の悲鳴がしてたのも聞こえてないんだろ?」
A:「そんなの聞こえなかったぞ!それに、あれが見えないのかって、どういうことだよ。」
B:「幽霊なのか何なのかわからないけど、人型の大きな物が人間の腕をむしり取って食ってた。」
そして、私たちは帰路につきました。
あの建物は、何の目的で誰が立てたのでしょうか?
Bにだけ見えた、人型の大きな物って、何だったんでしょうか?
何故、廃墟なのに地下だけ異様に綺麗だったのでしょうか?
幽霊を見たことのない私の、一度だけの不思議な体験です。
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