彼が通っていた小学校には古びた図書館がありました。
近く、取り壊される予定だったその図書館には、ある「噂」がありました。
その図書館のどこかには、人々の恨みを溜め込んだ一冊の「ノート」があり、それに恨み言を書くとその人の恨みなどの負の感情を吸い取ってくれるのだとか。
しかし、ノートが恨みでいっぱいになったとき、誰かに不幸が降り注ぐ、というものでした。
図書館はそれなりに広く、一冊のノートを見つけ出すのはそれなりに苦労がありました。
そのせいか、取り壊しが迫っていながらもその図書館には来訪者が増えました。
彼もそのノートを探すために休み時間や放課後をノート探しのために図書館で過ごすことが増えました。
広い図書館には彼の読める本、読めない本がたくさんありましたが、彼は自分が読める本のある場所に限定して本を読みながら本棚を探し回りました。
すると、付近の本の作りとは異なる、一冊の薄いノートを見つけました。
普段はあまり人が近づかない、図書館の奥に仕舞われていました。
彼がそのノートを開くと、さまざまな書体や色で、恨み言や悪口、目にするには些か過激な内容がズラッと書かれていました。
彼は、これこそが噂のノートであると確信しました。
彼は、そのノートをこっそりと自分のカバンに仕舞い、図書館を出ました。
家に帰った彼は、そのノートの書き込みの最後のページを開きました。
彼は、「○○なんて死んでしまえ」と書きました。
その人物は、彼をいじめていたのです。
それを書いた瞬間、彼は自分の心が晴れやかになっていくのを感じました。
その日の夢の中、彼は自分が誰かに刺される夢を見ました。
とてもリアルなその感覚に驚いた彼は真夜中に目を覚ましてしまいます。
「死」のイメージを強く感じた彼は、ノートの書いた内容を後悔します。
取り返しがつかなくなる前に例の記述を消しゴムで消そうとしますが、鉛筆で書いたはずの文字が消えません。
何度こすっても消しゴムがすり減るばかり。
仕方なく、消すのを諦めた彼は鉛筆で文字を塗りつぶすことにしましたが、何も書き込むことができません。
鉛筆でなぞっても、何もノートに写らないのです。
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彼は、ノートが恨みでいっぱいになったのだと確信しました。
「このままでは自分が不幸になるのでは、夢の出来事が現実に起こるのでは」
と感じた彼はノートを破ろうとしますが、頑丈には見えないノートが決して折れ曲がることすらありませんでした。
結局、彼はノートを押し入れの奥に隠してしまいます。
その次の日、彼はノートに書き込んだ生徒が学校に来ていないのを知ります。
その日の授業で、彼が転校したことを聞きました。
死んでいないだけましか、と思った彼は、数日たっても自分にも誰にも不幸が訪れていないことに安心を覚え、ノートのことを忘れてしまいました。
図書館は、その数ヵ月後に無事に取り壊されます。
その数年後、彼は中学進学を機に新たな交友関係を持つようになります。
そして、その新しい友人の一人から、こんな話を聞きます。
「数年前、□□小学校の生徒が一人、全身真っ黒な通り魔に刺されて死んだって話。
その通り魔は未だに捕まっていないんだとか。
確か、その小学校の図書館が取り壊される数ヶ月前だった。
名前は、確か○○だな」彼はあのノートのことを思い出します。
ノートの呪いは彼の恨みも吸い取り、形になっていじめっ子に襲いかかったのです。
今でも彼の部屋の押し入れには隠しておいたノートが眠っているのでしょうが、
怖くて確認できないそうです。