彼は家族とともに祖父の葬儀に参加するために父の実家まで来ていました。
葬儀と言っても父には兄弟がおらず、祖母と彼の一家だけの家族葬となりました。
葬儀もつつがなく終了し、一泊してから帰る予定となりました。
彼が寝泊まりしている部屋は、祖父が生前に自分の趣味のために使っていた部屋で、部屋中に手製の木工品などが置いてありました。
祖父の手作りのようです。
眠れずにいた彼は、祖父の使っていた作業用の机を漁ってみることにしました。
机の中には作業に使う小刀の類から工具、裁縫道具まで幅広く用意されていました。
どれも年季が入ってることが分かる見た目のものばかりでしたが、その中でも一際古びた道具がありました。
祖父が使っていたであろう眼鏡です。
しかも、どうやら老眼鏡ではなく、普通の近視用の眼鏡のようです。
見た目からして、祖父が老眼鏡を使う間に使っていた眼鏡のように見えました。
同じく眼鏡をかけていた彼は、試しにその眼鏡をかけてみることにしました。
自分の眼鏡とは度がかなり違うようで、視界はとてもぼやけていました。
眼鏡を外している時よりも何も見えませんでした。
しかし、どうにも様子がおかしいです。
眼鏡を外している時とは見え方が変わっています。
具体的に言えば、眼鏡をかけた途端に全く別の場所を見ているような感覚です。
ただ、部屋の主な輪郭はそのままで、置いている物の位置が違って見えるのです。
その時、急に部屋の入口が開けられました。
しかし、物音一つしません。
この部屋の入口の扉はかなり傷んでいて、開け閉めするたびに大きな音がします。
それがしないので彼は扉が開けられたことに気づくのが遅くなりました。
そして、扉を開けた人物は、亡くなったはずの祖父でした。
目を疑った彼は眼鏡を外してみると、そこには誰もいませでした。
おかしいと思って自分の眼鏡をかけてみますが、やはり誰もいません。
不思議に思ってもう一度祖父の眼鏡をかけてみると、そこには作業机に向かっている祖父の姿が映っていました。
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ぼやけてはいましたが、間違いなく亡くなった祖父の姿でした。
しかし、話しかけても祖父は反応しません。
手を伸ばすと、スーっとすり抜けました。
幻を見ているようです。
そこで、またしても部屋の扉が開かれました。
今度は祖母です。
何か飲み物を持ってきたようです。
祖父がそれを受け取って飲み干すと、祖父は急に倒れてしまいました。
祖母は慌てる様子がなく、飲み物のグラスを片付けていました。
ぼやけてはいましたが、祖母は二ヤーっと笑っていました。
震えていた彼の視界の隅には、祖父が亡くなった日付の日めくりカレンダーが映っていました。
祖母が祖父を殺したのか、という疑問を抱いたまま彼は翌朝の朝食を食べに居間に向かいました。
そこには朝食の用意をしている祖母がいましたが、もはや今までの優しい祖母には見えなかったそうです。
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