今ではかすかな記憶でしかないのですが、小さい頃衝撃的な体験をした覚えがあります。
たしかあの日は入道雲がのぼる快晴だったのですが、夕方にかけて突然大雨が降り出しました。
小さかった私たちは、大慌てで近くの古い倉庫に入っていったのです。
その倉庫は、もう使われていない場所で私たちは秘密基地にしていました。
椅子が2つに一畳ほどのゴザが1枚元々あったのですが、そこに人形やオセロなど家から持ち出した物も置いていたので秘密基地の中だけでも十分に遊べました。
しばらく遊んでいましたが友人のひとりがあるものを見つけたのです。
それはニットでできた帽子でした。
女の子しかその秘密基地を知っていなかったので、男の子がかぶるような黒に近い青色の帽子がそこにあることが不思議に思ったのです。
汚く見えたのですが、友達の中でも明るい性格で男の子っぽい性格のSは、躊躇なくその帽子をかぶりました。
雨が降っていてもオセロができるほどの薄暗さなので、似合うか否かで楽しく話していました。
しかし次の瞬間Sは、「冷たい。雨漏りしてる?」と言ってきたのです。
立っていたSと同じくみんなも立ち上がったのですが、倉庫の屋根は雨漏りしている様子ではありませんでした。
その時、雷がピカッと光り私はやっと気付きました。Sの頭からアゴにかけて赤い血が流れていることを。
恐る恐る帽子に手をかけ、Sからそれを奪うとみんなもSの顔についた血に気付きました。
Sは、驚いて腰をぬかし座り込んでしまいましたが、私はなぜかその帽子の中をのぞいてしまったのです。
中にはよくわからないもじゃもじゃとした髪の毛のようなものが見えました。
中に手を入れて確認しようとしたとき、他の子が私の手をはたいて帽子が落下したところまで覚えています。
ですが、そこからの記憶はありません。
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一週間経ってからの記憶はあります。
テレビのニュースで放送され、私は親や友達に知らされた話です。
私の家の近くに住んでいたKという少年の頭皮とその他の死体が私たちの秘密基地で見つかったということでした。
Sが家族に話して通報してもらったので事件が発覚したらしいです。
あの時私たちは無我夢中で自分の家に帰っていたので気付いたのはSだけらしいのですが、
秘密基地で彼女が座り込んだ拍子に床板が少しずれたそうです。
その床の向こう側には、こっちを見ていた目があったと言っていました。
そんなかすかな記憶を同窓会の時Sに話しましたが、Sは覚えていないと声を震わせて言うのでもう誰にも聞かないつもりです。
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