私のクラスには一人、いじめっ子がいました。
私はそこまで被害を被ってはいませんでしたが、クラスメイトの中にはひどい怪我を負わされた人もいたようで、何人かは教師たちに訴えましたが、演技がうまく、いいように教師たちを言いくるめてお咎めなしということを続けていました。
おかげで、何の対策も取られることなく日々は続きました。
ある日、私は近所の駄菓子屋でお菓子を買っている最中、見慣れない古めかしい箱を見つけました。
箱の大きさは筆箱の半分ほどだったでしょうか、何のお菓子かと思ってそれを手に取ってみると、箱には「懲らしめる薬」と書かれていました。
振ってみると、サラサラという音が聞こえたので、中身は粉であろうと考えました。
妙な味の粉菓子かと思ってそれを買うことにしました。
確か、10円だったと思います。
私はその薬らしきものを、例のいじめっ子に飲ませるつもりでした。
買って帰ったあと、中身を見てみるとやはり粉でした。
粉は和紙のようなものに包まれていました。
一口舐めてみると、何の味もしませんでした。
一応、安全を確かめてみたかったのです。
今思えば、何と無謀なことをしたと思います。
翌日の給食の時間、席が隣同士だったことを利用して、彼がよそを向いている時に汁物系のおかずにその薬を入れました。
その薬はすぐに溶けて、跡形もなくなりました。
彼はそれに気づかずにそのまま平らげてしまいました。
それから彼は急に人が変わったようでした。
以前のように比較的騒がしい性格をしていたのが、妙にしおらしくなったのです。
それ以降、彼にいじめられたという生徒の話は聞かなくなりました。
あの薬のおかげだと、私は内心喜んでいました。
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ところが数日後、彼は授業中に急に立ち上がり、いきなり窓の外に飛び出していきました。
教室は2階にありましたが、着地に失敗したものの、彼はそのまま走り始めたようです。
教師が数人がかりで押さえ込もうとしていますが、それを振り切って彼はどこかへ走り去っていきました。
その時です。
彼の姿に妙な違和感を感じたのは。
なんだか、妙な影が重なって見えているかのようでした。
のちほどクラスメイトに聞いてみると、
どうにも黒くて恐ろしい見た目の何かに見えたようです。
その頃から口々に「取り憑かれた」という噂が流れ始めました。
ちなみに、彼の姿を見たのはそれが最後でした。
転校したということになっていますが、噂では「行方不明になった」
「入院している」「そのまま死んだ」といった話が横行していました。
それからも私には特に何も影響は出ていませんが、薬の話は誰にもしていません。
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