ある中学生の男子には、幼馴染の友人がいました。
幼稚園からずっと一緒に過ごしてきた彼の趣味は、生き物を飼うことでした。
犬猫だけでなく、虫や鳥など、身近な生き物をたくさん飼っていました。
飼いきれなくなった生き物(犬猫など大型の生き物中心に)は、近所の家に貰われていくことが多かったので、「動物屋」とか「動物博士」というあだ名で呼ばれていました。
ある日、学校で彼に会った時、
「今、何かの卵を孵化させようとしてるんだ。お前も見に来ないか?」
と言われ、久しぶりに友人の家に遊びに行くことにしました。
友人の部屋で見つけたものは、水槽の中に入れてある「卵」でした。
何の卵か、と聞いても、友人にもわからないそうです。
何の特徴も無いので、孵してみないと分からないそうです。
友人は、何が孵っても育てるつもりで、孵化するのを楽しみにしていました。
それから数日後、友人から不思議な話を聞かされます。
「卵が孵ったんだけど、何の生き物の卵か分からなかったんだ。」
と言います。
なぜ、孵化したのに分からないかを尋ねると、
「今朝、目が覚めたら既に孵っていた。けれど、孵った生き物の姿はどこにもなかったんだ。」
という話しらしいです。
数日前に見たときは、卵のサイズから考えても脱出できるような水槽ではなかったし、水槽上部には金網が敷かれていて、網目は細かったはずなのですが。
これでは確かに不思議な話ですが、何らかの方法で脱走したのだろうという話に落ち着きました。
それ以降、日に日に友人の元気が無くなっているようにも見えました。
体調が悪いということで心配していましたが、どうやら飼っている虫や鳥が相次いで死んでいるので、その影響かな、と思いました。
それから更に数日後、学校を休んだ友人の家にプリントを持っていくと、出迎えてくれた友人の母親まで何だかやつれているように見えました。
数日前に会ったときはここまでやつれてなどいなかったはずなのですが、と、彼女の体調も気遣いながら友人の部屋に向かいました。
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妙でした。
いつもなら犬や猫、鳥の鳴き声がうるさかった家の中に、動物の鳴き声一つしないのです。
心配になって友人の部屋に足早に入ると、かなりやつれた友人の姿に驚きます。
話を聞くと、あの卵が孵ってから生き物たちが次々に死んでいったそうです。
今では、人間以外の全ての生き物が死に絶え、お墓を作る余力も残っていないのだとか。
何とか土に埋めてあげたそうですが、これ以上は居た堪れなくなって聞いていられませんでした。
用事があった彼は、友人に「お大事に」と告げ、友人宅を後にしました。
友人の姿を見たのは、人生でこれが最後になりました。
それから数日後、連休明けで学校に向かうと、クラスは何だか騒々しくしていました。
話を聞くと、友人宅で火事があり、友人一家は全員焼け死んでしまったということです。
事故か自殺かと噂が飛び交っていましたが、彼の脳裏にはあの日見た卵の姿が浮かんで、なかなか消えませんでした。
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